お気に入りアルバム
(ボサノバ Part 1)


僕の個人的な思い入れのあるボサノバ系アルバムを紹介します。パート1は、インスト中心もの、および男性歌手(といってもジョアンだけ)を集めました。

  A Vontage/Baden Powell
  Samba Blim/Tamba 4
  In Person at El Matador/Sergio Mendes & Brasil '65
  Wave/Antonio Carlos Jobim
  In Mexico/Joao Gilberto

ア・ヴォンタージ/バーデン・パウエル
(A Vontage/Baden Powell)

 その昔「バーデン・パウエルの偉大な世界」というタイトルで発売されたこのアルバムとの出会いは、僕にとって、後のウェス・モンゴメリーとの出会いに匹敵する衝撃的なものだった。高校生だった僕は、学校から家に帰ると毎日(レコードを借りてきてテープレコーダーに入れたのを)聴いて必死にコピーした。当時のテープレコーダーは再生スピードを選べるものだったので、半分のスピードにして一音ずつ聴き取っていった。当時は、そういうことをしていた人は他にもたくさんいた。<イパネマ>、<宇宙飛行士>、<ビリンバウ>、<ジェット機のサンバ>など、どれも不朽の名演! 1963年の作品で、このころのバーデンの音色は本当に魅力的。磨かれた水晶のように、硬質で輝きに満ちた独得の音色。
 オリジナルアルバムの体裁にこだわらなければ、「ベスト・オブ・ボサノバ・ギター〜黒いオルフェ」という、何とも安っぽいタイトルのバーデンのベストアルバムが超オススメ。これには「ア・ヴォンタージ」のほぼ全曲(1曲未収録)と続編「O SOM DE BADEN POWELL」(その昔、「バーデン・パウエルの偉大な世界 第2集」として発売されていた)のおいしいところを約半分、そしてその他の初期の名演数曲が収められている。
 この他のバーデンのアルバムでは、MPS盤のLP3枚をCD2枚にまとめたアルバム「Three Originals」(廃盤らしい)や「SOLITUDE ON GUITAR(孤独)」あたりがオススメ。ただしMPS盤はピッチがかなり狂っている。 また、フランスのピエール・バルーが制作した"SARABAH"というビデオ/DVDも必見で、全盛期(67年)の動くバーデンを見ることができる。
バーデンは60年代が一番音色が美しいように思う。70年代の途中からだんだん烈しさを増したぶん繊細さが失われ、かえって凄みが薄れたように思える。

サンバ・ブリン/タンバ4
(Samba Blim/Tamba 4)

 タンバ4は僕が大学生のころにシビレたグループ。このアルバムともう1枚同じA&Mの「二人と海」、どちらもレコードがジョリジョリになるまで聴いた。演奏はもちろんのこと、コーラスが絶品で、ルイス・エサ(ピアノ)のジャズ寄りのアレンジがいい。そしてベベートの歌、フルート、ベースはすべて気品があって美しい。
タンバ4の前身がタンバ・トリオだったというのはその頃から知っていたが、本当の元祖タンバ・トリオの凄さを知ったのは、長〜い間入手困難だった初期のアルバム3枚がCD化されてこれらを入手したときだ(日本のボンバ・レコードから発売)。いやあ、最初からこんな凄いグループだったんだ!と再認識した。これらの3枚に上記の2枚のA&Mのタンバ4、全部超推薦だけど、僕自身の昔の想い出と、ストリングスをうまく生かしたセンスの良さと聴きやすさを考えて、1枚選ぶなら「サンバ・ブリン」にしておこう。それにこのアルバム、長らくCD化されず、ずーっとCD化を待ち望んでいたものだし、その意味ではLPで感激、CD化されたこと自体でまた感激している。
でも初期のアルバムで聴くことができるオリジナルメンバーのヘリシオ・ミリートのパーカッションは本当に凄いから、そちらもぜひ聴いていただきたい。

イン・パーソン・アット・エル・マタドール/セルジオ・メンデスとブラジル65
(In Person at El Matador/Sergio Mendes & Brasil '65)

 セルジオ・メンデスの名を世界的に高めたのはブラジル66を率いて全米デビューした1966年のこと。その前の年に1年間だけ、よりブラジル色の強いブラジル65という素晴らしいグループ(メンデスのトリオ+ギター+歌)を持っている。
 このアルバムはブラジル65が残した2枚のアルバムのうちの1枚。ギタリストのロジーニャ・ジ・ヴァレンサはバーデン・パウエルの影響をモロに受けた素晴らしい女性ギター奏者。歌手は若き日のワンダ・サー。メンデスのピアノはジョアン・ドナートの影響を強く受けているのがよくわかる(ここでもドナートの曲を数曲演奏している)。
 ちなみにもう1枚のアルバムは、ゲストにアメリカのジャズサックス奏者のバド・シャンクを加えたもので、甲乙つけがたい出来栄え。
 なお、ブラジル66も初期の3枚、「マシュ・ケ・ナダ」、「コンスタント・レイン」、「ルック・アラウンド」はアメリカ市場向けのポップなアルバムとはいえ、エキサイティングで、音楽的にも素晴らしい。このシンプルな編成でよくぞここまでダイナミクスや変化をつけられるなあ、と思う。

波/アントニオ・カルロス・ジョビン
(Wave/Antonio Carlos Jobim)

 ジョビンは、ヘンリー・マンシーニやジミー・バン・ヒューゼンとともに、僕の最も好きな作曲家である。そしてあのピアノスタイルがたまらない。また後年のジョビン・ファミリー・バンドの編成のユニークさ/サウンドの素晴らしさにも舌を巻いている。さらに、個性的でリズミカルな彼のギターが僕は大好きだ(ボサノバギタリストとしてのジョビンが過小評価されているのが残念)。
 ジョビンはボサノバの作曲家というには幅が広すぎる。クラシカルな曲想のもの、民族音楽のようなシンプルなものなど、ジャンルを越えた作曲家だ。むしろ、自然を愛し、家族を愛し、ゆったりとした人生を愛した彼の生きざまこそが、「ボサノバ」なのかもしれない。そんな中で、このアルバムは「ボサノバ」作曲家/演奏家としてのジョビンの魅力を一番分かりやすく伝えているのではないかと思う。オーバーダビングでピアノとギターの両方を弾いている。特に、曲ごとにバチーダ(ギターのリズムパターン)を変えているジョビンのギターに注目! 実はこのアルバム、ボサノバギターの名盤でもあると僕は思っている。
 ところでこのアルバム、なぜか緑色と赤色の2種類のジャケットがある。今でも両方のジャケットを見かけるが、どちらがオリジナルなのか。
 他のジョビンのアルバムでは、素晴らしいピアノソロによる<太陽への道>や新しい奥さんとのデュオ<ボセ・ヴァイ・べイ>が聴ける「テラ・ブラジリス」、死後に陽の目を見たアルバムでヴィニシウスの追悼コンサートにおける感動的名演を収めた「AO VIVO」などがオススメ。それとエリス・レジーナとの共演盤(別項参照)も必聴。

彼女はカリオカ/ジョアン・ジルベルト
(原題は"In Mexico/Joao Gilberto")

 ジョアンの作り出したギター奏法はまさしく革命的で、とんでもなく素晴らしい。新しい魅力溢れる音楽カテゴリー、スタイルを創り出した。モダンジャズのチャーリー・パーカー、ブルーグラスのビル・モンローに匹敵する偉業だ。ジョアンの弾くタイミング/リズムこそがボサノバの原点だし、ボサノバで使われる和音もジョアンが全て集大成したようなもの。ボサノバギターはぜーんぶ、元はジョアンなのだ。ちなみに僕にとってのギターの神様は、ウェス・モンゴメリーとバーデン・パウエルとジョアン・ジルベルトの3人である(あれっ、神様は「3人」とは言わないのかナ?)。
 神様ジョアン・ジルベルトのアルバムは全部必聴、と言いたい気もするが、似たようなアルバムが多いのも事実。単調さゆえ、心酔者以外の人には通して聴くのがちょっとシンドイというアルバムもある。 歌に関しては、やはり若い頃のほうが瑞々しい。「ビロードのような」という表現を見たことがあるが、まさにその通りのまろやかな声。曲、全体のアレンジなんかを総合すると、僕はこのアルバムが一番聴きやすいし、好きだ。(このアルバム、輸入盤で買うことをお勧めする。日本盤は位相が逆相になっていて聞き苦しい曲が数曲あるので。)
 この他のオススメアルバムは、白いジャケットの「ジョアン・ジルベルト」、超有名な「ゲッツ/ジルベルト」、そして「アモローゾ」。あと、隠れ名盤が「ゲッツ/ジルベルト#2」。この中でジョアンがタンバ・トリオの名パーカッショニスト、ヘリシオ・ミリートをバックにやってる数曲が絶品(ベースのキーター・ベッツも加わっているが、これは蛇足)。また、最近の枯れたジョアンを聴くには、初来日時のライブ盤「イン・ジャパン」が断然いい。

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