お気に入りアルバム
(ボサノバ Part 2)

僕の個人的な思い入れのあるボサノバ系アルバム紹介パート2です。 女性歌手の魅力を味わえるアルバムを集めました。

  Antologia do Samba Cancao/Quarteto Em Cy
  Sessao Nostalgia/Maria Creuza
  The Shadow Of Your Smile/Astrud Gilberto
  Meu Primeiro Amor/Nara Leao
  Elis and Tom
  Minha Saudade/Lisa Ono
  The Other Side Of Jobim/Ana Caram
  Janelas Abertas/Carol Saboya e Nelson Faria
    

サンバカンソンのアンソロジー/カルテート・エン・シー
(Antologia do Samba Cancao/Quarteto Em Cy)

 ウェス・モンゴメリーの「ハーフ・ノート」、バーデン・パウエルの「偉大な世界(ア・ヴォンタージ)」など、僕の人生を変え、いまだに聴き続けている大好きなアルバムがあるが、無人島にCDを1枚だけ持っていくとしたら僕はこのアルバムを選ぶような気がする。本当にこれを聴くと心が安らぐ。気持ちがいい。気分のいいときに聴けば、さらに気分がよくなる。気分が悪いときに聴けば、気分が晴れる。
 女性4人コーラス・グループ、カルテート・エン・シーの絶頂期、コーラス・テクニック的にも凄い。僕の大好きなルイス・クラウディオ・ラモスが、多くの曲でのアレンジとギターを担当。このアルバムの美しさを感じられなくなったら人間をやめたほうがいい、とさえ思っている。なおこのCDアルバム、もともとVol.1とVol.2の2枚のLPだったのを、2枚分まとめて1枚のCDになっている。
 あこがれのカルテート・エン・シーは1989年にボサノバ30周年コンサートで初来日した。渋谷公会堂のステージでカルロス・リラが演奏する「ミーニャ・ナモラーダ」のサビに入るところで、舞台の袖から彼女らが歌いながら登場したときは、鳥肌が立ち、おもわず涙が出てきたものだ。
 他のカルテート・エン・シーのオススメ盤は、タンバ・トリオと共演した初期の「SOM DEFINITIVO」、新しい傾向の曲も取り上げた「QUERELAS DO BRASIL」。そして「カルテート・エン・シーとルイス・クラウディオ・ラモス」。これはラモスの生ギター1本を伴奏にした、シンプルで素晴らしいアルバム。本当にセンスのいいギタリストであることがよくわかる。

哀しみのノスタルジア/マリア・クレウザ
(Sessao Nostalgia/Maria Creuza)  ★入手困難

 マリア・クレウザには一時すっかりハマったものだ。1979年に来日し、いまはなき六本木のピット・インで1晩だけライブをやった。これを見に行ったのもいい思い出だ。彼女はあるときから歌い方が妙に官能的になって、いやらしくなってきた。それ以降現在に至るまでのクレウザは聴く気がしない。でも、絶頂期は本当に素晴らしい。ボサノバ歌手というより、サンバカンソン歌手として、最高に魅力的だった。このアルバムは僕にとってのクレウザとの出会い。彼女のアルバム中、一番たくさん聴いたアルバム。バックも素晴らしい。
 同じ時期の「リオの黒バラ(Eu Disse Adeus)」も甲乙つけがたい名盤。それ以前の初々しいマリアのアルバムが数枚あるが、今は入手状況はどうなのか? <カリニョーゾ>や<ハウ・インセンシティブ>が入ったアルバムもいいんだけど。逆にこれ以降のは「真夜中のマリア」まで。入手困難だと思うけど、彼女がサンバの曲を歌っているアルバムもある(「MARIA CREUZA E OS GRANDES MESTRES DO SAMBA」)。彼女の歌うサンバって、何ともかわいらしいのだよね。

いそしぎ/アストラッド・ジルベルト
(The Shadow Of Your Smile/Astrud Gilberto)

 ジョアン・ジルベルトの元妻アストラッドと言えば、1960年代中頃の最初のボサノバブームの頃はボサノバの代名詞的な存在だった。何と言っても彼女の歌う<イパネマの娘>だったのである(僕自身もアストラッドからボサノバに入った)。このアルバムは彼女のセカンドアルバムで、ギターにルイス・ボンファ、そしてアレンジにジョアン・ドナートを迎えており(ともに全曲ではないが)、聴きどころが多い。中でもボンファとのデュオによる「黒いオルフェ(カーニバルの朝)」は名演。なお、このアルバムとデビューアルバム「Astrud Gilberto Album」の2枚分丸々プラス数曲が入っているベスト盤が出回っているので、そちらを買うほうが賢明だ。
 ヴァーヴ時代の彼女のアルバムはけっこう楽しめる。ワルター・ワンダレイとやった「A Certain Smile, A Certain Sadness」はワンダレイのコンボも秀逸。スタン・ゲッツのコンボに加わって歌っている「ゲッツ・オー・ゴー・ゴー」のアストラッドも可愛らしい。彼女はコンボをバックに歌うほうが良さが引き出されるような気がする。

私の初恋/ナラ・レオン
(Meu Primeiro Amor/Nara Leao)

 僕はナラが大好きだ。歌はそれほどうまくないかもしれないけど、声がすごくいいし、彼女の優しさが滲み出ている。ハートがある。この雰囲気こそボサノバだ。比較的若くして脳腫瘍で亡くなったが、絶対にいい人だったんだろうなと思う。
 このアルバムは子供たちに捧げたアルバム。やさしいお母さんだったナラの優しさが伝わってくるし、本当に楽しそうに歌っている。そしてアレンジがアントニオ・アドルフォ、ギターがクラウディオ・ラモスという、まさに僕好みの布陣。いわゆるナラの代表作ではないと思うけど、しみじみ、「いいなあ」と思う。
 他のアルバムでは、比較的後期の作品で、ロベルト・メネスカルのプロデュース/アレンジによるボサノバ名曲集「わたしのボサノバ」(フィリップス)、同時期にメネスカルとデュオで吹き込んだシンプルで美しいアルバム「ギターひとつの部屋で」(フィリップス)、初期の作品で隠れ名曲がたくさん詰まっている「五月の風」も大好きだ。異色作品として、サンバの曲を集めた「わたしのサンバ」(フィリップス)というアルバムも素敵だ。これはマリア・クレウザのサンバ集と同じように、素材はサンバでもあくまで本人のスタイルで歌っている楽しいアルバム。あと、ずいぶん以前にメネスカルとのデュオでボサノバ名曲を楽しそうに演奏している素敵なビデオが出回っていたが、いまは入手困難のようである。

バラに降る雨/ジョビンとエリス・レジーナ
(Elis and Tom)

 ジョビンの魅力とエリスの魅力を最大限に発揮した奇跡のアルバム。デュエットの曲なんか本当に楽しそうで、聴いているほうもうれしくなってしまう。1曲目の「3月の雨」を聴けば、このアルバムの魅力がすぐにわかるはず。エリス・レジーナも全然気張らずにリラックス。ジョビンとエリスが仲良く音楽で遊んでいる、という雰囲気が伝わってくる。僕は他のエリスのアルバムはあまり聴かないが、こういうサウンドでもっと吹き込んでほしかったと思う。
 全体としていわゆるボサノバからちょっと離れたサウンドだが、こういうサウンドこそジョビンらしい。

私のサウダージ/小野リサ(BMGビクター)
(Minha Saudade/Lisa Ono)

 天才/変人の作曲家/ピアニスト/アレンジャーのジョアン・ドナートをゲストに迎えた、小野リサによる彼の作品集。
小野リサを聴いてボサノバが好きになった日本人が多いのにはビックリするとともに、納得する。僕自身も彼女の大ファンだ。個人的にはデビューから数年間のアルバムが好きである。その中で一番のお気に入りがこのアルバム。シンプルでのんびりしたドナートの個性が、リサとすごく合っているように思う。ドナートもかなり「やる気満々」だったようで、巧みなアレンジにも、絶妙のピアノにも彼の才気が現れている。彼のピアノもお聴き逃しなきよう。タイミング、音色、和音、すべてが素晴らしい。
 リサの他のオススメアルバムはまず「リオ・ボッサ」。これはいろんな素晴らしいブラジルのミュージシャンが参加しているし、曲も魅力的なものばかり。「私のサウダージ」と甲乙付けがたい。その他、リサ自身の昔からのお気に入り曲を中心に採り上げている「ナモラーダ」は、小編成によるシンプルなサウンドで、「ボサノバ」の原点を感じさせてくれる。このアルバムにはハーモニカのトゥーツ・シールマンが参加している。またジョビンの息子や孫とやった有名ボサノバ曲ぎっしりの「ボッサ・カリオカ」も悪くない。

The Other Side Of Jobim/Ana Caram

 アナ・カランはあまりブラジル音楽ファンの間で話題にならないような気がする(気のせいかも)。でも僕はけっこう好きで、このアルバムはとりわけ大好きである。世にある数多くのジョビンに捧げるアルバムの中で、このアルバムはかなり上出来だと思う。題名どおり、ジョビンの隠れ名曲を集めたもので、シンプルなアコースティックのコンボ編成のアレンジもしっかりしている。
 ちなみに、アナ・カランはデビュー当時ジョビンに認められて、デビュー盤(「リオ・アフター・ダーク」)にはジョビンとデュオの曲を2曲入れている。この2曲のためだけでもデビュー盤を買う価値があると思う。他にはボサノバ有名曲を集めた「BOSSA NOVA」がいい。それと「BLUE BOSSA」。これには僕の大好きなギタリストのネルソン・ファリーアが参加している。

ジョビン集/カロル・サボイアとネルソン・ファリーア
(Janelas Abertas/Carol Saboya e Nelson Faria)

 実に多くのジョビン集が巷に溢れている。それぞれジョビンへの暖かい想いが込められていて、水準の高いものが多いが、上記のアナ・カランのアルバム以降で個人的に大いに気に入っているのがこれ。一時ずいぶんとハマって聴きまくった。ネルソン・ファリーアのセンスのいいギターは、僕の好みだ。カロル・サボイアの若く透明な歌声はきれいすぎてちょっとキツイ、という気がするときもないではないが、それを補って余りある魅力を放っている。それにうま過ぎるほどうまい。
 このアルバムは選曲もすごくいい。シンプルな編成、アレンジも好感が持てる。
 カロルの他のアルバムで好きなのは、お父さんのアントニオ・アドルフォと一緒にやっている「Ao Vivo Live」。その他のアルバムももちろん悪くはないが、ちょっと気張りすぎていたり(初期のアルバム)、口当たりが良すぎる、という印象がある。

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