僕のお気に入りアルバム
(ピアノのジャズ)

僕の個人的な思い入れのあるジャズ系アルバムを紹介します。このページはピアノトリオのアルバムから。

  Jazz Giant/Bud Powell
  Kelly Blue/Wynton Kelly
  Sonny Clark Trio
  Good Deal/The Three Sounds
  Introducing Carl Parkins
  We Three/Roy Haynes
  Junior/Junior Mance
  

ジャズ・ジャイアント/バド・パウエル
Jazz Giant/Bud Powell (Verve)

 天才バド・パウエルの演奏は1950年ぐらいを境にして大きく変わった。精神病の電気ショック治療のせい、という話を聞いたことがある。やはり治療前の演奏が凄く、ルースト盤の「Bud Powell Trio」A面と「Genius」(Verve)、それにこのアルバムが圧巻。この中で「Jazz Giant」が一番、濃厚な中身がギッシリ詰まっている。
 このアルバムでもルースト盤でも、「これぞビバップピアノ」という感じのアップテンポの凄まじい演奏が繰り広げられる。とにかくリズムが強力。歯切れが他のピアニストと違う。
 一方で、この上なくロマンチックでしかもジャズの優雅な香りと気品を感じさせてくれるバラード演奏が素晴らしい。いや、素晴らしすぎる!このアルバムでは<I'll Keep Loving You>と<Body and Soul>、ルースト盤では<Everything Happens To Me>と<I Should Care>。何度聴いても感動が走る。パウエル派と呼ばれるピアニスト達で、この気品を越えた人はいないのではないか? ビバッパー、パウエルだけではなく、ロマンチスト、パウエルをもっと見直してもらいたい。
   
ケリー・ブルー/ウィントン・ケリー
Kelly Blue/Wynton Kelly (Riverside)

 とにかくケリーのピアノは大好き。音色もフレーズもリズムも、すべて気持ちいい。躍動感あふれ、コロコロして明快で美しい音色。どんな気分のときでも、ケリーのピアノを聴いたら、人生って楽しいねえ、と思えてくる。ケリーはサイドマンとしても強力。ケリーのバックでギターを弾く、というのが僕の叶わぬ夢。サイドマンとしてのいいアルバムが山のようにあるが、リーダー作にもいいのがある。とくにこのアルバムは、フルートとベースで粋に始まる表題曲、そして躍動感あふれるピアノトリオによる<Green Dolphin Street>が印象的(ほかの曲もみんないいけど)。表題曲を含む2曲が3管入りなのも、アルバムとして実にバランスがいい。ボビー・ジャスパーのフルート、ナット・アダレイのコルネットも最高! ベニー・ゴルソンのテナーはいつものように、出だしはいい雰囲気。
 他のケリーのリーダー作では、チェンバースとフィリー・ジョーと組んだトリオ・アルバム、「Kelly at Midnite」(オリジナル盤にこのように綴られている)、これは気楽なセッション的なアルバムで、まるでライブアルバム。フィリーがとにかく凄まじく、フィリーの名演アルバムと言ってもよさそう。もう1つ隠れ名盤を紹介したい。Xanaduから出ていた「Blues on Purpose」、チェンバース、ジミー・コブとのレギュラートリオだが、これは実はあの名高いウェスとケリートリオのハーフノート出演時の前半パート(=ウェス抜きのトリオ)の演奏。レギュラーのケリー・トリオのライブ盤というのは意外なことにこのアルバム以外にない。3人とも実にリラックスしていて、音はあまりよくないけど内容は最高だ。

ソニー・クラーク・トリオ
Sonny Clark Trio (Blue Note)

 僕はソニー・クラークも大好き。ウキウキのケリーに対して、クラークは哀愁ある切ない音色が魅力。そしてメロディアスでチャーミングなフレーズと、粘りのあるビート。ピアニスティックなワザはそれほど持ち合わせていないけど、ひたむきに淡々と弾く。ときどき無性に聴きたくなるピアノ。そして、「いいよなあ。やっぱり、好きだなあ。」と再確認して安心するようなピアノ。
 このアルバムのサイドメンは、当時マイルスバンドのリズムセクションだったチェンバースとフィリー・ジョー。最強のメンバーだ。とりわけ、<Tadd's Delight>や<I Didn't Know What Time It Was>のようなミディアムテンポが切々としていい。<I Remember April>のソロピアノも素晴らしい。スタンダードばかりで固めたこのアルバムに対して、チャーミングなオリジナル曲で固めたタイム盤の「ソニー・クラーク・トリオ」もいいけど、リズム隊の躍動感の差でこちらのほうが気持ちいい。
 それはそれとして、クラークの作曲家としての才能は素晴らしい。メロディアスでどこか可愛らしくてチャーミングな曲がたくさんある。上記のタイム盤「Sonny Clark Trio 」の他に、「Leapin' And Lopin'」、ジャッキー・マクリーンの「Fickle Sonance」にはクラークのオリジナル曲がたくさん入っている。

グッド・ディール/スリー・サウンズ
Good Deal/The Three Sounds (Blue Note)

 パウエルとまったく対照的なのがこのスリー・サウンズのジーン・ハリスのピアノ。一昔前は日本のジャズ批評家からバカにされてきたこのトリオ、絶対にいいです。こういうジャズをバカにする人を僕はバカにしたい! ハリスのピアノはむずかしいことはやらないけど、ジャズの大切な要素をバッチリ押さえている。つまり、引きずるようなノリ、ブルージーなフィーリング、明快な音色、たたみかけるようなフレーズ、などなど。聴いていてウキウキしてくる。お酒がおいしくなる。
 見逃してはならないのがベースのアンディ・シンプキンス。過小評価ミュージシャンの代表だ。ジャズの香りがいっぱい。音色がいい。ビートがいい。フレーズがいい。余計なことやらない。
 このグループ、ブルーノートレーベルの売れセン、稼ぎ頭だったので、ずいぶんアルバムを作っている。どれを聴いても安心。気に入ったら片っ端から買えばいい。ただし、そんなに変わりばえしない。偉大なるワンパターンだ。その中でこのアルバムを選んだのは、名演<Robbin's Nest>が入っているから。他のアルバムでは、ジャケットが安っぽいのに中身が濃い「Moods」が好き。

イントロデューシング/カール・パーキンス
Introducing Carl Parkins

 この人が片手が小児麻痺で左手があまり使えないと聴いたときは「ウソでしょ!」と思った。たしかにそんなペラペラ弾く人じゃないけど、全く音が足りないなんてことは感じない。今聴いてもそうだ。ついでに書くと、ホレス・パーランの場合は右手がほとんど使えない。いや、これはもっと驚きだ。言っておくけど、こういう話は彼らの演奏の素晴らしさに触れた後で聞いた話。2度ビックリ、なのである。 パーキンスのトリオアルバムはこの1枚しか残されていない。阿佐ケ谷のジャズクラブ「マンハッタン」のマスターの1番好きなアルバムがこれ、というのも後から知った話。
 ウエストコーストで弾いていた人で、ハンプトン・ホウズやソニー・クラークなんかもそうだけど、イーストコーストとは別の香りがする。気候のせいもあるかもしれないなんて思う。渋くて、地味だけど、いいんだなあこれが、という感じのアルバムだ。
 僕はパーキンスが参加した他のアルバムをそれほど知らないけど、ハロルド・ランドのアルバム「Harold In the Land of Jazz」でのパーキンスがなかなかいい。自作曲(ウェスで有名な)<Groove Yard>を弾いているのだけれど、テーマの後のパーキンスのフィルインのカッコ良いこと!

ウィー・スリー/ロイ・ヘインズ
We Three/Roy Haynes (Prestage)

 これは凄いアルバムだ。ジャズの歴史を変えたりしたアルバムではないけど、あの時代の残した最高の遺産の1つだ。メンバーの組み合わせもマグレに近い。ロイ・へインズ、フィニアス・ニューボーンJr、ポール・チェンバース。このトリオでのアルバムは他にない(そもそもロイ・ヘインズとポール・チェンバースはあまり一緒にやっていないのではないか?)。でも最高に息が合っている。フィニアスの<A World Of Piano>というアルバムのA面はフィニアス〜チェンバース〜フィリー・ジョーというトリオ。このトリオからドラムスが変わっただけ、といえばそうなんだけど、雰囲気はだいぶ違う。何故かレイ・ブライアントの曲が2曲、他もあまり知られていない曲が多いが、一度馴染んでしまうとどれもいい曲ばかり。病み付きになる。天才ピアニスト、菅野邦彦さんが一時期、このアルバムにハマったのも有名な話(でもないか)。
 ところで、最近このアルバムのCDを購入したのだが、何と2曲目の<Sugar Ray>、LPとは別テイクだった! これはたいへんなことだ! 評論家もレコード会社も、気が付いていないようであるが。

ジュニア/ジュニア・マンス
Junior/Junior Mance (Verve)

 ジュニア・マンスの絶対的最高傑作で、愛すべきチャーミングなアルバム。ベースのレイ・ブラウンが大いに貢献しているが、選曲もいいし、録音もいいから、いつでも気持ち良く聴ける。正直言って他のマンスのアルバムでそれほど熱を入れて聴いたのはないけど(とはいっても「At the Village Vanguard」はけっこう好きだった)、これはよく聴いた。
 ちなみに僕はマンスのライブを今はなき六本木ピットインとニューヨークのライブハウスで1回ずつ聴いているが、いずれもとても楽しかった。オスカー・ピーターソンの小粒版という評価もあるが、クラブでのライブなどではかえって親しみやすくていい感じ。  

 

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